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朗読の日練 俳優 長塚京三 [今日の日経記事から]

朗読が好きである。

テキストを目で追いつつ、声にする。それを聞いて、平常心に揺るぎはないか、明確に伝達されているか、耳で確かめる。一人の中で三つの作業が一時に連携する。これほど完全な、一回性のパフォーマンスはない。しかも地上最小の上演形態だ。

はたして今日の私は、最後までノー・エラーで数多の曲折を縫い、障害物をかいくぐって、涼しい顔でゴールできるほど絶好調だろうか。

テキストを開けば初舞台のときのような高揚が蘇(よみがえ)る。完走を遂げて歓喜する予感に、早くも笑みがこぼれそうになる。そこをぐっと堪えて、「こんな話のどこが面白い」と、テキストを一旦遠くに突き飛ばしておいてから、他人事のように第一声を発する。

好きこそ物の上手なれ、と楽観して、これまで朗読の依頼は断ったことがない。

といって、朗読会で大当りを取った記憶もない。

この手の会はお客様を選ぶのか。一方に、贔屓(ひいき)の俳優(私だ!)の生の声を目当てに馳せ参じてくれる、有難くも奇特な一握りのファン。そしてもう一方に(こちらが大半だが)、批判精神満々で、お手並み拝見とばかり、審査員然と居並ぶ、その時々の演目の愛読者たち。微妙な観客事情である。

そこで一考、今年から私は、毎日欠かさず「日練(毎日の練習)」をすることにした。朗読である。日ごろ普通に黙読していた読書を、朗読に格上げした。

声は使わなければ錆(さ)びる。「日練」でもしない限り、いつまでも好きこそ物の、なんて言っていられなくなる。

【所感】
最後の一文に長塚さんらしい決意と自負を感じる。
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